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硫黄ポリマーで環境負荷低減に貢献 あわとり練太郎ができること

インタビュー 2025.06.04

硫黄ポリマーで環境負荷低減に貢献 あわとり練太郎ができること

大阪大学大学院の小林裕一郎先生は、【硫黄ポリマーコンポジットの作製とその特性評価】のテーマで日々研究に取り組まれており、本テーマで、第2回シンキーサイエンスグラント(2023年)で大賞を受賞されました。
持続可能な社会の必要性が叫ばれて久しく、低環境負荷の材料開発が以前にも増して進められており、中でも環境配慮型のプラスチックの開発が課題となっております。
硫黄ポリマーは環境負荷の低減を達成しつつ、高機能化が可能なことから近年注目されています。既に社会実装に至っている事例には炭素ポリマーがありますが、小林先生は硫黄ポリマーの社会実装を目指して研究を進めていらっしゃいます。小林先生には、受賞の助成としてあわとり練太郎ARE-310を1年間ご使用いただきました。
今回は、同大学の研究室へ赴き、グラント採択後のご研究の進展について、また練太郎のご使用状況についてお伺いしました。

研究テーマに硫黄を選ばれた理由を教えてください。

2014年に京都大学に在籍していた頃、毎年ノーベル賞候補に挙げられる北川進先生の研究室で特任研究員をしていました。研究室では、みんなで論文や文献を読む会があり、そこでたまたま誰かが硫黄に関する論文を紹介してくれました。北川進研究室ではポリマーではなく低分子の研究が中心だったため、その論文がすぐに自分の研究に結びつくことはなく、「硫黄がポリマーになったら面白いんだな」と思う程度に聞いていました。
2019年に大阪大学で大学教員として自分のテーマを立ち上げる際に、ふと硫黄ポリマーのことが浮かびました。硫黄は自然環境下に豊富に存在し、多様な化学的特性を持つことから産業界にとって重要ですが、原油精製の副産物として毎年過剰に生産され、やむなく廃棄されているという環境課題があります。一方で、硫黄は更なる応用用途が期待されており、こうした廃棄物の硫黄から高機能材料を生み出すというのは世界でもあまり研究されていなかったため、ブルーオーシャンな研究テーマではないかと思いました。研究の導入から社会実装までの筋道が考えやすい点も魅力的でした。始めた後は、学生たちのおかげで研究がうまくいっています。
このような廃棄物から合成できる硫黄ポリマーは、自己修復材料、高屈折レンズ、吸着材、次世代二次電池、ガス選択透過膜、接着剤等の応用用途が考えられます。現在は、電池の原料として使いたいというのがモチベーションです。硫黄ポリマーを電池の正極にできれば、軽量で高性能、かつリサイクル可能な夢の電池ができるのではないかと思っています。

硫黄ポリマーの開発を進めるうえでポイントだった課題を教えてください。

硫黄ポリマー自体は、2013年にアリゾナ大学化学・生物化学部のジェフリー・ピュン教授(当時)が画期的な方法を編み出されており、私が開発したものではありません。それ以前は、硫黄ポリマーの合成手法が確立しておらず、どうしてもポリマーとして使えなかったのですが、ジェフリー・ピュン教授の方法は材料を混ぜて加熱するだけで非常に簡単でした。
丸くつながっている硫黄分子を高温で加熱し、切れた部分に新たに結合させる方法で、皆がその方法を採用する流れがありました。私も流れに乗って試してみましたが、出来上がったものは研究室でさえ異臭問題になるほどに臭くなってしまいました。強烈な異臭の原因は合成時に発生する硫化水素(H2S)で危険ですし、こんなに臭かったら使えないだろうと思いました。おそらく、皆さんはこの臭いや高温の問題を我慢しながら電池を作り、無理やり評価しているのだろうという印象でした。この方法を継続的に行うのは学生に申し訳ない思いもあったため、室温で合成でき、臭いも出なくて使いやすいものを目指して作りました。 新しいものを生み出したというより、画期的な製造法を作り出したという方が正しい表現かもしれません。

図1:硫黄ポリマーの連鎖重合と逐次重合の比較の図。

昨今のCO2削減の流れを考えると、社会実装する上でどれだけ低環境負荷で作れるかが重要でした。室温で作る場合、一般的な高分子の作り方には連鎖重合と逐次重合の2つがあります。これはどちらが良い悪いではなく、応用用途によって使い分けますが、硫黄ポリマーの場合は連鎖重合しか選ばれていませんでした。世界中の研究者がなぜ逐次重合を試さないのか疑問に思い、試してみたところうまくいきました。単純な発想の転換です。Aは行われているけれど、Bは行われていない。なぜかはわからないけれど、Bでやってみたらうまくいったという形です。
この発見ができた理由としては、硫黄というニッチなフィールドで、高分子の知識を持った研究者が過去にいなかった幸運が重なったのではと推測しています。ジェフリー・ピュン教授はもともと石や鉄など無機化合物が専門の方なので、おそらく硫黄も数ある無機化合物の一つとして、それをポリマーにしようというモチベーションで始められたと思います。一方で、私の場合はポリマーの背景から硫黄を何とかしたいと考えたため、連鎖重合ではなく逐次重合もあるのではないかという発想に至ったのだと思います。

図2:開発した硫黄ポリマーの比較の図。バイオプラスチックは環境配慮型のプラスチックとして研究・開発が進められている。小林先生は、硫黄ポリマーを使用することで環境負荷低減に貢献できるとの観点から研究を進めている。

硫黄ポリマーの合成方法ですが、硫黄を溶かした溶液に試薬を添加してスターラーで撹拌します。溶液と試薬が混ざり合成が進むと濁ってきて、更に撹拌を続けると塊の樹脂になります。できた樹脂を溶媒に溶かして炭素の黒い粉末を入れて分散させた後、溶媒を飛ばすときれいな真っ黒な物質ができます。これが電池の材料になります。

左:材料となる硫黄。 右:硫黄ポリマーを合成している様子。硫黄が溶けた溶液に試薬を添加し、スターラーで撹拌している

あわとり練太郎の用途を教えてください。

合成した硫黄ポリマーに炭素材料を分散させる時に使用します。硫黄が絶縁性のため、電池の場合は電気を流せる硫黄ポリマーを作る必要があります。いろいろな方法がありますが、電気の流れる炭素材料と混ぜるのが一番簡単な方法です。 硫黄ポリマーを溶かした後に炭素の粉末を入れ、自転公転の動きで均一に分散するときれいなキャスト膜ができます。あわとり練太郎を使わないと、この綺麗な膜にはならず、炭素の塊が浮いたままで表面がでこぼこになるため目視でもはっきり違いが分かります。他のやり方でも混ざるだろうと軽く考えていたのですが、自転公転の重要性がよくわかりました。

図3:電気を通す硫黄キャスト膜の作り方。
左:硫黄ポリマーに炭素の粉を分散させて作成したキャスト膜。「硫黄ポリマーと炭素材料の配合比を変えて、ひたすら混錬を繰り返しました」
右:ご研究について説明くださる小林先生。

あわとり練太郎導入前は大変でした。最初は硫黄ポリマーを冷凍して事前に砕いてから分散させていました。液体窒素を容器に注いで硫黄ポリマーを凍らせ、すぐに蓋をして液体窒素と炭素が入った容器を振るという手作業でした。そこで、あわとり練太郎を使うと、溶かした後に炭素を入れてもちゃんと分散し、室温で処理できるようになりました。それまでの試行錯誤からは、その分散性が信じられず、「本当に?」と驚くほどでした。
スターラーで分散を試みて失敗を繰り返した経験もあります。処理時間を延ばせば分散したのかもしれませんが、そうも言っていられませんでした。あわとり練太郎を使うと短時間で処理ができ、本当にありがたかったです。スターラー撹拌とあわとり練太郎との比較はしていませんが、スターラー撹拌のものは恐らく機械的性質も落ちるのではないかと思います。硫黄ポリマーは伸びる性質があるため、電極材料に使用し放電中に電池が膨らんだり縮んだりするのをカバーしたいというニーズがあります。ポリマーに炭素材料を混ぜると硬くなりますが、そのニーズを満たす混合比が見つかっています。

左:引張試験機。強度等を測るため、できた膜をJIS規格に則ったダンベル状に型抜きして引張試験を行う。試験片を挟んで上下方向に引っ張る。右:引張試験実施後のダンベル試験片。「泡が入るとダンベル試験片が抜けないので、とにかく脱泡が重要です」

シンキーサイエンスグラントにご応募いただいた経緯を教えてください。

以前の職場であわとり練太郎を使った経験がきっかけです。当時は別のポリマーに炭素材料を混ぜて導電性のポリマーを作っていましたが、装置名は知りませんでした。後に装置名を知りましたが、そのままで分かりやすい素晴らしい名前ですね。電池材料を混ぜる方は皆さん当たり前にあわとり練太郎を使っているので、電池の先生に聞いたら「ああ、あれね」という感じでした。
グラントに採択されあわとり練太郎を試さなければ、炭素材料の分散が実現しなかったので、研究を進められなかったと思います。混ざる以前に、あわとり練太郎を買うかどうかの予算の点で諦めていたと思います。 これを言っていいのかわからないですが、お借りしたあわとり練太郎は松田以外の学生も使っていました。ポリウレタン系を研究している学生がどうしてもポリマーが発砲してしまうようで、「使っていいですか?」と聞かれて、「壊さなければいいよ」といいました(笑)。松田があわとり練太郎を使っていたおかげで、私たちは本来困るだろう気泡の残存で困らず済みました。みんな大事に使っていました。

今後の展望を教えてください。

おかげで電池性能が出ることが分かり、昨年から東北大学の岡弘樹先生と共同研究をしています。岡先生はもともと大阪大学にいらっしゃった電池の導電性のスーパースターで、当時から「何か一緒にやりたいですね」と話していました。岡先生が「導電性を測る機械を持っていますよ」と言ってくださり、グラントに採択されたので「導電性を測りに行ってもいいですか?」とお願いしたところ、快く受け入れてくださいました。私と松田でこの材料を持って東北大学へ行き、導電性を測定しました。おかげ様で良い結果が得られ、これがきっかけで共同研究にも繋がりました。このようなデータを集めてリサイクルできるかどうかも検討しています。

左:東北大学で計測した、導電性のグラフ。分散する炭素材料の量が増える程、伝導率が向上していることから、炭素材料が十分に分散していることが分かる。
右:研究室に入り、早くも2か月後には初の学会発表を経験されたという松田さん。「東北大学には2回行かせてもらって導電性のデータをとらせてもらいました」

この材料は電池の正極に使うものですが、電池全体を考えると、次に負極のデザインや間を何で満たすかを考える必要があります。私たちにはそのあたりのノウハウがありません。そのため、電池の先生と組んで研究を進めたいと考えています。これ以上はラボでは対応しきれない規模の実験になってしまうので、ここから先は共同研究先にお願いしています。これだけの成果を出せれば、先方も満足してくれています。

図4:硫黄ポリマーの社会実装で考えられる業界と応用用途。各業界でどのようなベンチマークの値があるかをはじめとし、共同研究を行うことでポリマーと調和した社会構築に向けた材料開発を進めたいと考えている。

インタビューを終えて

研究室に伺った際、お約束の時間前にエントランスにいたところ、ちょうど先生が通られ、お声がけいただきました。学生さんたちとランチから戻られるタイミングで、学生さんから慕われる先生のお人柄が印象的でした。訪問時は春休み中でしたが、たくさんの学生さんが研究室で各々の研究に取り組んでいらっしゃり、休暇中とは思えない雰囲気でした。こういった研究に没頭する方々の努力が技術の進歩に貢献し、いずれは社会を前に進めるのだと感じ、感慨深く思いました。 今後ともあわとり練太郎をよろしくお願いいたします。


小林裕一郎 先生 プロフィール

<ご研究職歴>
2011.04-2014.03 大阪大学大学院 理学研究科 高分子科学専攻 原田研究室 特任研究員
2014.04-2016.07 京都大学 工学研究科 合成・生物専攻 北川研究室 特定助教
2016.08-2019.01 大阪大学大学院 理学研究科 附属基礎理学プロジェクト研究センター 原田グループ 特任助教
2019.01-現在 大阪大学大学院 理学研究科 高分子科学専攻 山口研究室 助教

<受賞学術賞>
高分子研究発表会(神戸)エクセレントポスター賞(2012年)
日本化学会優秀講演賞(学術)(2016年)
花王科学奨励賞(2017年)
高分子研究奨励賞(2020年)
ヤングサイエンティスト講演賞(2022年)
テックプランター大阪2022 池田泉州銀行賞(2022年)
第30回CERI最優秀発表論文賞(2022)
公益財団法人UBE学術振興財団 第63回学術奨励賞(2023年)
超異分野賞(2023年)
シンキーサイエンスグラント大賞(2023年)
第31回CERI最優秀発表論文賞(2023年)
第72回ネットワークポリマー討論会 ベストプレゼンテーション賞(2023年)
RETSCH Scientific Challenge Siliver Prize(2024年)
第15回ブリヂストンソフトマテリアルフロンティア賞(2024年)
第33回CERI最優秀発表論文賞(2024年)
成形加工学会優秀ポスター賞(一般)(2024年)
リアルテックファンド賞(2025年)
イノベーション共創講演賞(2025年)

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