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「ナノ粉砕機」開発者インタビュー~摂南大学 橋本直文教授に聞く~

2015/01/14

インタビュー

「ナノ粉砕機」開発者インタビュー~摂南大学 橋本直文教授に聞く~

今回は、短時間で材料のナノ粒子化ができる「自転・公転ナノ粉砕機 NP-100」の共同開発者、そして当社の技術顧問でもある摂南大学の橋本直文教授にご登場いただきます。医療分野での用途を想定して開発された「ナノ粉砕機」ですが、今では工業系など様々な分野で活躍しています。

1.まず、橋本先生と当社製品の最初の接点をお聞かせください。

元々、17年程前から「あわとり練太郎」の存在は知っていたのですが、実際に使うようになったのは12年程前からです。当時はファイザー株式会社の中央研究所に在籍していました。安全性試験用に均一な懸濁液を作るという業務があり、練太郎を使うようになったのです。安全性試験というのは、懸濁液にした薬を動物に投与して、副作用や毒性を調べる試験なのですが、懸濁液が不均一であれば投与する薬物量が一定にならず、データがばらつく原因となります。したがって、均一な懸濁液を作ることが最も重要になります。それまではスターラーで撹拌していたのですが、より簡便で、短時間で均一な懸濁液ができる練太郎を使うようになりました。
そして、日本で使用して非常に結果が良かったので、ファイザーのイギリスやアメリカの研究所にも紹介し、各国の研究所に向けて、統一した安全性試験の方法を提案しました。その後、会議で承認され、共通の操作手順の中に入ることになり、イギリスやアメリカでも導入されました。

2.なるほど。それ以外の用途はいかがですか?

スターラーで懸濁液を撹拌して薬の粒子を細かくする実験をしている部下がいたので、それを見て、練太郎にビーズを入れると懸濁液の撹拌だけではなく、ビーズによって容器中の薬が細かく粉砕されるのではないかと思い、練太郎で粉砕を試みました。数百マイクロのものが数マイクロまで小さくなり、その時に粉砕もできるということが分かったのです。スターラーでは丸一日かかっていた粉砕時間が、練太郎だと数分に短縮されました。

3.そこから「ナノ粉砕機 NP-100」の開発につながっていくのですね。

はい。ファイザーでナノ粉砕が話題になりかけた頃、中央研究所が閉鎖になり、その後、大学に移って研究を継続しました。そして機械の開発については、シンキーの高塚さん(現開発部応用技術課課長)が主な窓口となり、共同で進めて行きました。一方、世の中では5年程前(今から言えば12年程前)から「ナノ」が様々な分野で話題になっており、医薬品にも応用する動きが出ていました。

4.薬をナノ粒子化することによる主なメリットを教えて下さい。

ナノ粒子化することにより、粉末の総表面積が格段に大きくなり、同時に溶解度も上がり、その結果、経口投与(口から投与すること)後の消化管からの吸収性が良くなります。 当時の世界の研究所では、薬理活性(薬としての活性)は高いけれども水に溶けない化合物が沢山発見されていました。しかし、薬は水に溶けなければ消化管から吸収されません。ですからナノ粒子化は、吸収性の面で非常に有効な手段だと認識したわけです。当初、ナノ粒子は経口投与による吸収性の改善が目的だったのですが、200ナノ以下に粉砕すると、点眼(目に薬液をさすこと)、あるいは経皮投与(皮膚表面から薬を吸収させる投与方法)、静脈内投与、筋肉内投与など、様々な投与経路に適用することが可能になります。

5.ナノの医薬品は今後、益々増えるのでしょうか?

これから飛躍的に増えていくと思います。というのは、例えば、粒子が大きいために溶解速度が遅く、100mgを経口投与したうちの一割(10mg)しか消化管から吸収されない薬があったとします。それをナノ粒子にすると、溶解速度が格段に速くなるため、10mgを投与するだけですべてが吸収される可能性が高くなります。つまり、少ない投与量で従来の投与量と同じ薬効を得ることができるわけです。投与量が多いと、吸収性のばらつき、あるいは副作用などの悪い影響が出ることがあります。薬は良い面もある一方、悪い面もあります。ナノ粒子化することにより、過剰な薬を投与する必要が無くなるので、より安全性の高い医薬品の開発に繋がると思います。

6.「NP-100」の開発過程でご苦労された点はございますか。

シンキーの技術者と色々話し合いながら開発していったのですが、当初、回転数を上げることによって高熱が発生しました。熱というのは薬にとって非常に危険なファクターなので、いかに発熱を抑えて短時間で粉砕するかということに集中しました。回転数、容器の形状、懸濁液の濃度・体積の影響など、様々な点を考慮しながら、ベストな条件を見出すことに非常に苦労しました。

NP-100が製品化された後、ARV-10kTWINという最大20L/20kgまで処理できる大型ミキサーへのスケーリングファクターを検討し、ARV-10kTWINでNP-100のデータと同じ粉砕物を造ることに成功しました。今では、NP-100で得られたデータをARV-10kTWINに適用して粉砕すると、NP-100の場合と同じ粒度分布を持った懸濁液ができるようになっています。スケーリングファクターと何気なく言っていますが、これは非常に重要なファクターで、スケールアップだけでなく製造コストにも影響してきます。実験室レベルのNP-100で、数十mgの非常に高価な薬を使ってナノ粒子への粉砕を検討することにより、製造レベルでの粉砕条件を予測することができます。このスケーリングファクターがなければ、製造レベルのARV-10kTWINで数十kgの高価な薬を使わなければなりません。たった一回の検討で良い粉砕条件が見つかることはありません。そうすると、数千万円あるいは数億円に匹敵する薬が条件検討だけのために使われてしまうわけです。コスト面で膨大な節約になります。

7.現在、先生の研究室でも「NP-100」を使った研究をされていますが、今は主にどのようなテーマに取り組まれていますか?

ナノ粒子に粉砕した難水溶性の薬は、水の中では懸濁状態で存在します。そういった粉砕物を医薬品である錠剤やカプセルにするためには、粉末(固体)にしなければなりません。そこで、ナノ粉砕した懸濁液の水を抜く、つまり乾燥させることによって粉末を得ることができます。その代表的な方法が凍結乾燥です。その際、かなりの量のナノ粒子が凝集を起こしやすくなります。ナノ粒子になると、粒子表面の静電活性が非常に高くなり、粒子同士が凝集して小麦粉のダマの様なものができてしまうのです。そのダマは経口投与後もなかなか壊れないので、いかにそのダマを防ぐかが消化管からの吸収性において重要になります。懸濁液から水を抜いて粉を得て、そこにもう一度水を入れると同じ懸濁液ができる、という研究を行っており、ほぼ成果が出つつあります。

もう一つは、軟膏の点眼薬(眼軟膏)に関する研究をしています。コンタクトレンズをつけている時に埃が入ると目が痛くなりますが、あれは数百マイクロの埃が入ることによる刺激から痛みが出るのです。ナノサイズになると全く刺激が無くなります。また、眼軟膏を患者さんが自分で投与する場合、恐怖感を伴います。特に高齢の方は手が震えて軟膏を塗るのが怖いと感じています。水に良く溶ける薬では水溶液の点眼薬が可能ですが、水に溶けない薬ではナノ粒子化することにより、懸濁液であっても異物感がなく、普通の点眼薬と同じ投与方法で同じ効果が得られるのです。今は主にこの二つの研究を行っています。

8.現在、「NP-100」は医療分野の枠を超えて、工業系など様々なジャンルのお客様にご利用頂いておりますが、その点は開発者のお一人としてどう思われますか?

その波及効果には驚きました。医薬の領域に加えて、より幅広い化学・工業系領域に応用されるとは当初は想像していなかったのですが、かなりの問い合わせがあるということで、非常に嬉しく思います。

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橋本先生、貴重なお話ありがとうございました。
超微量粉砕が効率的にできることで好評な「NP-100」ですが、現在、より多くの量が処理可能な中型機、大型機の完成に向けて鋭意開発中です。今後共、シンキーのナノ粉砕機にご期待下さい。


橋本 直文 教授

◆略歴
1977年3月 金沢大学大学院自然科学研究科薬学専攻 修士課程 修了
1977年4月 塩野義製薬株式会社 中央研究所 製剤研究室
1999年1月 ファイザー 中央研究所
      薬剤・分析・CMC研究室室長、薬物動態・代謝研究部上席研究員
      薬剤科学研究部上席研究員
2007年1月 摂南大学薬学部教授 薬品物性化学研究室

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